I(U)ターン経験者に訊く①2019.01.07

由良直樹(44歳)
大阪府守口市出身
アルチザン・スクール1期生(http://www.artisanschool.net/
株式会社足立(http://www.adachi-bag.co.jp/

かばん作りに関して言えば、豊岡は人脈が豊富で情報も設備も資材も集まっているこの環境を活かさない手はない、と思いました

 豊岡の市街地にある(株)足立は、70余年にわたりかばんの付属材料卸しを営むと共に、サンプル作製、OEM生産、及び自社新製品の開発に取り組んできた。そんな多様な業務を担う同社で働く大阪出身のIターン経験者、由良さんが、約20年勤めた前職を辞してアルチザンに入学したのは2014年春。アルチザンの記念すべき1期生だ。見知らぬ土地で新たな一歩を踏み出してから間もなく5年、現在ではかばんのデザインから営業、ホームページのマネージメントまで多岐にわたって活躍中だ。

 

──現在のお仕事の内容を教えてください。
由良:かばんのサンプル師をしています。OEMと自社オリジナル、両方あるのですが、入社してすぐに僕のデザインで自社オリジナルをやる機会に恵まれました。翌月に入社を控えていた時期に「自分のデザインでやってみないか」とチャンスをいただいて。もちろんいつかはやってみたいと思っていましたけど、まさかこんなに早く実現するとは思わなかったです。もともと私は前の会社でシステム関係の仕事をしていて、こちらの会社でキャドを導入することになり、そっち方面に詳しい人間が必要だったというのもあって採用され、実際その仕事もしています。他にOEMの相手企業さんへの営業もやっています。


「40過ぎでも就職できるんじゃないか、ものづくりの業界に入れるチャンスじゃないかと思ってチャレンジしました」。

──幅広くいろいろなことをされているんですね。
由良:そうですね。ホームページのマネージメントもやっています。全国各地で開催される豊岡鞄フェアの販売に出かけることもあります。

──入社されてどのくらいですか?
由良:あと少しで丸4年です。やりたいと言えば、何でもやらせてくれる社長なんです(笑)。

──ご出身は大阪ですよね?
由良:はい。大阪でシステム・エンジニアの仕事を20年近くやっていました。

──由良さんはアルチザンの第1期生ですが、20年も別のお仕事をされていたのが、なぜ、アルチザンに?
由良:ここに来る5年くらい前からものづくりをしたいという気持ちは持っていました。でも、さすがに40前後の転職は難しいだろうと半ば諦めて趣味でかばんを作っていたんです。でも市販の型紙通りに作ることしかできなくて、アレンジを効かせるにはどうしたらいいか、そういうことを勉強できる学校はないかと探していたら、たまたまアルチザンを見つけたんです。1年間勉強すれば、企業のバックアップもつているから、40過ぎでも就職できるんじゃないか、ものづくりの業界に入れるチャンスじゃないかと思ってチャレンジしました。

──ご自分でかばんを作られていたそうですが、ものづくりならかばん以外にも色々あると思うのですが、なぜかばんだったのでしょうか?
由良:かばんは縫うだけでできますから。家具だと切ったり削ったり色を塗ったり大ごとになるじゃないですか? かばん作りはテーブルとミシンさえあればできる。それが自分の性に合っていました。気楽さと、縫うだけという潔さというか(笑)。それだけで形になりますからね。気に入った型だけをずっと作っていました。


アルチザン仕込みの手断ちを披露!?

──アルチザンでの1年を終えた後の就職は、どんな経緯でされたのでしょうか?
由良:アルチザンに通っていた8月くらいに、自作のかばんを各企業にプレゼンする機会があったんです。その時に私が、パワーポイントを駆使して作った資料などを用いてプレゼンしたのを今の社長が見ていてくれまして、あいつならキャドも使えるしいいんじゃないか、とお声かけいただきました。

──大阪に帰ることは考えなかったですか?
由良:それも迷ったんですけど、僕はアルチザンの1期生だったので、まだ学校としての実績もないわけです。豊岡の企業ならツテはありますが、大阪となると自分で一から探していかなければならない。ハードルが高すぎると思いましたし、それほど高いお給料が見込めないのに大阪で暮らすのは大変だろうという気持ちもありました。実家に帰る気はなかったので。かばん作りに関して言えば、やはり豊岡は人脈も豊富です。かばん作りの神様みたいな人がいて、かばん作りに関わっている人がたくさんいて、外注さんもたくさんいて……。情報も設備も資材も集まっているので、この環境を活かさない手はないな、と。それに大阪はそれほど遠くないので時々は帰れますし、1年住んでみて豊岡も悪くないなと思い始めていました。

──入社前の会社のイメージは、入社後に変わりましたか?
由良:当初、足立は材料屋さんだと思っていたんです。でも、話を聞いたり見学に来たりしてかばんの生産もしていると知りまして入社を決めました。40歳過ぎている自分が受け入れてもらえるか心配もありましたが、自分より年長の方もいて、また若いインターンの方もいて年齢層が幅広かったのも良かったです。自分より若い人ばかりの中で、一番下っ端なのはちょっと厳しいものがあるな、と思っていたので。実際入社して、年上の方達にはすごく可愛がってもらいました。

──アルチザンの同期は何人いらっしゃいましたか?
由良:6人いました。一人は和歌山の企業から派遣されていた方で、残り5人は全員豊岡に就職しました。その後、家族が岡山でかばんのブランドを立ち上げるからと、その手伝いで豊岡を離れた方などもいますが。

──由良さん自身、どんな夢や目標をお持ちですか?
由良:いつか自分のブランドを持ちたいという希望はありますが、それは会社を辞めなくてもできることですからね。他の土地に比べたら、豊岡にはよりチャンスがあると思います。やりたいことを実現するために相談できる方も近くにいますし、実現しやすい環境があります。

──この仕事をやっていてよかったと思う瞬間は?
由良:京都の高島屋で開催された豊岡鞄フェアで、僕がデザインしたボストンバッグが売り出されたんです。それをご夫婦で気に入ってくださった方がいて、色違いで購入してくださいました。しかも翌日旦那さんがいらして、これとお揃いのパスケースはないの?って。嬉しかったですね。はまる人にはまるかばんなんです(笑)。はまる人は見ていて大体分かります。一目散にダーッと寄って来られて、「あ、この人、きっと買う」と思える瞬間があるんですけど、それを見るのが嬉しいです。「やっていてよかった」と思いますね。


由良さんデザインのバックパック。

──豊岡に暮らすメリットは何ですか?
由良:やはりかばんに関することが集約されていることが1番です。あとは車通勤ができて渋滞もないこと。お店も必要最低限はあります。選べないという難点はありますが、それはたまに大阪に帰った時に買い物すれば済みます。市長さんとFacebookで繋がれるとか(笑)。かばんのイベントでご一緒したのがきっかけでしたが、行政の方と直接お話しできる機会は、大阪に住んでいたらなかったと思います。

──豊岡の町自体のよさは、どんなところですか?
由良:寒すぎて暑すぎるところですかね(笑)。夏も冬も濃く楽しめます。暑さが全国1位じゃないとちょっと悔しかったりして。でも実際、マリン・スポーツもウィンター・スポーツも、どちらも車で20〜30分行けば楽しめますからね。スノーボードは、会社が終わってからナイターで楽しめます。贅沢な環境です。電車通勤ではないので、会社の人と飲みに行く機会はほとんどないんですけど、自宅に集まってご飯を食べることはたまにあります。


工房のみなさんと。

──今、Iターン、Uターンを考えている方にアドバイスがあればお願いします。
由良:やりたいことで生計を立てられるのはとても幸せなことだと思いますが、全てを自力でやるのは大変なことです。でも豊岡みたいに道筋ができている場所、システムが築かれている場所があるなら、思い切ってやってみたらどうかと思います。農業や漁業でも、そういうサポートがある場所でなら、やってみてもいいと思います。

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