I(U)ターン経験者に訊く②2019.01.07

藤原祥吾(29歳)
兵庫県豊岡市
アルチザン4期生(http://www.artisanschool.net/
カバンコンシェルジュ・キヌガワ|キヌガワ株式会社(http://kinugawa-cl.jp/

豊岡は田舎町でありながら、かばん産業に関しては世界とのつながりを感じることができると思います

 豊岡市街地に位置するかばんストリート。アルチザンを中心に豊岡のかばんメーカーが店舗を構えるこの通りが、宵田商店街と呼ばれていた時代からクリーニング店を営んでいたキヌガワ株式会社は、今、“カバン・コンシェルジュ”として大きな注目を集めている。藤原さんの作業場は、レトロな外観の店舗2階にある工房。ミシンや工具、色とりどりの革やパーツが所狭しと置かれている。アルチザンに入学した時から修理を志していたという彼に修理の魅力を聞いたら「修理は難しいからおもしろい」と返ってきた。

 

 ──ご出身はどちらですか?
藤原:豊岡です。

──地元を離れたきっかけは進学ですか?
藤原:そうです。大学進学のために大阪に行きました。新聞奨学生で通っていたんですけど中退しちゃって。新聞配達を続けながら4年ほどフラフラして(笑)、その後靴店でバイトをするようになりました。

──靴店さんでは販売を?
藤原:そうです

──豊岡に帰ろうと思ったのは、なぜですか?
藤原:勤めていた靴店ではお客様の靴を手入れすることもありました。また、自分もかばんに限らず革製品が好きだったので、何かを作ることに携われたらいいな、と思うようになりました。アルチザンの学校があることは知っていたので、どうかな?と。ただ、費用がかかるので、それもまた1〜2年悩んでいて、ある時「どうしよう?」と友人に相談したら、「そこまで考えているなら一度やってみたら?」と言われて、気が楽になりましたね。

──こちらに戻って来たのはおいくつの時ですか?
藤原:28歳の時です。高校生の時も、豊岡の柳行李が有名なことは漠然と知っていましたが、これだけかばん産業が盛んだというのは気に留めていませんでしたから、帰ってきて初めて気づいたし実感しました。

──実際にアルチザンで学び始めた時は、どうでしたか。
藤原:ミシンを踏むのも中学校の家庭科の授業以来のことで、何もわからないまま入ったんですけど、それこそミシン糸のかけ方から教えてもらえたので、安心できました。

──学校は楽しかったですか?
藤原:作ること自体は楽しかったです。大まかな課題に沿って自分で作りたいものを考えて、ここにはどのパーツが合うのか、とかスケッチしながら決めていったりするのは大変でしたけど。

──卒業後、かばんを作るのではなく、修理を専門に選ぶ人は珍しかったのではないですか?
藤原:先生にも「修理でいいのか?」と言われました(笑)。

──でも、“作る”より“修理”だったんですね。
藤原:靴店に勤めていた時に修理依頼の受け付けをしたり、自分でも靴やかばん、洋服を修理に出したりしていたので、修理には興味がありました。
気に入ったものは長く使いたいタイプなんです。時には購入時の金額より修理代が高くなるようなこともあるくらいで(笑)。
アルチザンに入る時にも「修理もできるようになりたい」という希望は伝えていました。でも、学校に入ると“作る”ことばかりなので、「作りたい」気持ちが大きくなって「修理をしたい」という気持ちは少し消えてきたんです。
それでも企業説明会の時に今の会社の話を聞いて、「やっぱり修理だ」と決めました。説明会では、かばん関連企業と学生が一対一で話をする機会があります。就職先を決めるのには良かったです。

──修理のおもしろさ、魅力を教えてください。
藤原:難しさが一番の魅力ですね。かばんを1から作る方がやりやすさはあると思います。素材も自分で選べますから。でも修理は、すでに出来上がったかばんが相手なので、それに合わせていかなければなりません。


「かばんの修理には、難しいからこそのおもしろさがあります」

──難しいからおもしろい、というわけですね。
藤原:そうですね。きれいに出来上がった時には「あぁ、出来たなぁ」という達成感があります。ただ、作りが良いかばんばかりではないので、ほどいて中を開けてみて「あれー?」ということもあります。

──高級なブランド品でもありますか?
藤原:ありますね(苦笑)。直しづらいかばんはあります。

──作りの良いかばんの方が直しやすいですか?
藤原:必ずしもそうではなく、作りが良すぎても難しいです。例えば、しっかり糊付けされている部位は慎重にそれを剥がさなければなりませんし。

──修理に出したものがきれいに直って帰ってくると嬉しいですよね。
藤原:そうですね。自分でも、思い入れのあるものは修理に出して、そういう嬉しい気持ちを味わっていましたし、靴店に勤めていた頃は、修理済みの靴を受け取ったお客様の嬉しそうな顔を見ていたので、それが、より修理への興味につながったとのだと思います。
ここで仕事をしていても、「きれいにしていただいてありがとうございます」とお電話をいただいたり、リピーターになって何度も修理に出してくださるお客様がいたりすると、嬉しいし励みになります。
18年3月に仕事を始めたので、もう少しで1年になります。仕事を始めた頃にできなかったことが今は出来るようになっていると、自分でも成長を感じられますね。
作業は早い方ではないし、技術的にはまだまだですが、最初のうちは縫い目がずれるのが怖くて何度も確認しながら時間をかけてやっていた持ち手交換が、最近ではすんなり出来るようになりました。

──次に目指すステップは?
藤原:今、財布作りを学んでいるので、それをリメイクにも活かしていきたいと思っています。もちろん修理にも活かしたいけれど、かばんにせよ財布にせよ、知れば知るほど難しい部分もわかってきますね。

──かばんを作りたい気持ちもありますか?
藤原:もちろんあります。

──将来的には、どんな夢、目標をお持ちですか?
藤原:今一緒に修理を担当している方はベテランなので、修理依頼のあったかばんを見てすぐに何をどうしたらいいかが判断できます。もちろんそれは豊富な経験がなせることなのですが、早くそうなりたいと思います。
自分はまだ、すごく考えてしまうんです。どこをほどいたらいいのか、どの革を使えばいいのか、と。そうした判断を早く的確にするために経験を積んでいきたいです。
最終的には「修理をするならこの人にお願いしたい」と思ってもらえるようになりたいですね。


どこをどうすれば綺麗に直せるかの判断が重要。

──この町にいたら、自分のブランドと工房を持って、作って修理して、ということもできそうな気がします。
藤原:そういう夢もないわけではないです。友人が大阪で靴作りをしているので、一緒にやっていけたら…なんてチラッと考えたりすることはあります。

工房には様々な種類の革素材やパーツが。

──ズバリ、豊岡の町の魅力は何ですか?
藤原:かばんの産業ということを考えると、田舎町でありながら、世界とのつながりを感じることができると思います。由利佳一郎 さん(世界的に権威のあるiF デザイン賞やミペル・アワードを受賞)が道を歩いていたりしますし。
豊岡以外で開催される「豊岡鞄」イベントの手伝いなどに行くと、他の企業の社長さんと直接話ができたりすることも勉強になります。
住む場所としては、食べ物は美味しいですね。今の季節はカニですが、知り合いに地物の新鮮な魚をもらうこともあります。


同僚のみなさんと。

──ちなみに余暇はどのようにお過ごしですか?
藤原:基本的にはインドア派なんですけど、最近はこの辺りにもカフェが増えてきたので、カフェ巡りをすることもありますね。

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