企業に訊く⑦2019.03.20

株式会社木和田正昭商店(http://kabanya.co.jp/) 
代表取締役社長 木和田智成

自分の作りたい豊岡鞄を作って産地直送で販売するということは、
工場を維持することにもつながります

 2006年(平成18年)11月に“豊岡鞄”が地域ブランドとして特許庁により認定された時のブランド委員長を務めていたのが、木和田社長だった。現在その任は退いているが、豊岡鞄へのこだわり、あるいは産地を支える企業のあり方や、試行錯誤の労苦を次々と歯に衣着せぬ物言いで語られていく話には強い説得力があり、揺るがぬ熱意があった。
 必要とあれば外部デザイナーとのコラボレーションを積極的に進めるなど、若手デザイナーやベンチャー企業のよきサポーターであり、またチャレンジャーでもある。インタビューを行なった本社から、アルチザンに移動しての撮影となったが、自社製品の豊岡鞄について丁寧に説明してくださるときには、自慢げであり、愛おしい我が子を見るようなやさしい顔をされていたのが印象的だった。

──木和田正昭商店の社長から見る豊岡鞄の現状と課題をお聞かせください。
木和田:平成18年に“豊岡鞄”が商標登録されました。当時の初代ブランド委員長が僕だったんです。各社の若手社長みんなで苦労して立ち上げたので、そういう意味での思い入れは深いです。日本各地のかばん売り場には、「Made in Japan」のかばんがたくさん並んでいる。でも、そこについているのはそれぞれのブランド名だけで、どこにも“豊岡製”とは書いていない。当然ですよね、OEM商品なんだから。豊岡で作られていることは、誰も知らない。それが問題だと思ったんです。だから、消費者の方に「Made in Japan」の多くは豊岡で生産されているんですよ、ということを知ってもらいたかった。そして「豊岡のかばんなら安心だね、信頼できるね」と言ってもらえるにはどうしたらいいか、を考えながらここまで来たというわけです。
 あなたはどこで買い物をしますか? 正直言って僕は、ほとんどがネットです。夏の暑い日に、冬の寒い日に、毎日忙しいのにわざわざ百貨店まで足を運び、商品知識の乏しい販売員に追いかけ回されながら、買いますか?という話です。そうなると、これまで通りOEM100%でいいのか、と。ありがたいことに木和田正昭商店はたくさんのOEM発注をいただいており、会社の主力になっています。が、自社でリスクを負い、自社でデザイン工房を持ち、自社でデザインして、自社で型紙をおこして、自社でサンプルを作り、自社で製品を作り、商品の長所を的確な文章で表現し撮影もして、直接産地から作り手の顔が見える形でお客様に買っていただくという産地直送の必要性に思い当たったわけです。こんなにいいものがこの値段で買えるのだというアピールが必要ではないかと思いました。ネット社会だからこそ、保険をどんどんかけていかないとメーカーは生き残っていけない。その一方で、メーカーだからこそ、自分たちが作りたいものを作ることができる。それは強みだと思っています。
 事実、弊社における豊岡鞄の売り上げシェアは毎年1%ずつ増えています。まだ92%はOEMです。でも8%は豊岡鞄。それが9%になり10%になってくると、今度はメーカーとして生産調整ができます。OEMの時間が空いた時に、自信のある商品や、豊岡鞄の新商品を作ることができるんです。ということは、パートさんに「休んでくれ」と言わなくてもいい。みんながフルで17時半まで働いて、予定通りに商品を仕上げる。見積もり通りにできるということは、赤字が出ないということ。ある程度自社リスクの商品を持って、自社在庫を持って、回転率をよくして、直接販売をして、キャパシティを維持するということも大切なのです。自分の作りたい豊岡鞄を作って産地直送で販売するということは、工場を維持することにもつながります。それがメーカーにとっては大きい。徐々に生産調整ができるようになってきているので、木和田正昭商店としては、少しずつでも、豊岡鞄のシェアを上げていきたいと思っています。
 ショップに関しては…豊岡にはアルチザンというフラッグ・ショップがある。東京のKITTEにも店舗がある。代理店契約をしているフィリップさんは、高円寺と鎌倉と成田山に店舗を構えています。こちら3店舗は絶好調です。アルチザンの方はネットを立ち上げて3年かな、こちらも絶好調です。城崎観光の調子がいいこととも関係しているでしょう。今年は天候がよく、随時お客様が来ていらっしゃいますからね、例年だと大雪警報が出れば旅館にはキャンセルが相次ぎます。
 KITTEに関しては、当然経費が高いです。商品単価があの店に合っているのかどうかという問題もあります。アルチザンは店舗が広いですから、あらゆるタイプ、グレードの商品を陳列してお客様に選んでいただける。でも、KITTEは限られたスペースの中に出資している会社の商品を均等に並べなくてはいけないというのもあるし、店舗に合った商品を陳列できているかどうかもまだ模索中です。メンズかレディースか?ビジネスかタウンか?ターゲットプライス等。木和田の商品も売れていますが、それは店舗陳列がなくてもラインナップを在庫として置いてあるからです。ネットを見て来られたお客様に「あれはないの?」と聞かれた時に出せるわけです。でも昨年(2018年)9月に立ち上げたばかりですからね。まだまだ試行錯誤は続きます。KITTE限定の商品というのも必要でしょう。


かばん屋さんは、自分のところの商品を使わないとダメ。使ってみれば、商品のいい面も悪い面もよく分かる。

──木和田正昭商店が作る豊岡鞄、一番のこだわりと言ったらどんなところになりますか?
木和田:やりたいものができる、ということ。木和田正昭商店のかばんと言ったら、ガシガシのビジネスバッグというイメージがあるんです、特にOEMの場合は。でもハンドバッグや袋物をやってみていいものができたら、新規のOEM先にも持っていけるんですよ。「うちが作った豊岡鞄でこんなのが売れています」と見せることができますよね。


こちらの質問に懇切丁寧な答えを返してくださる社長。

──御社は、外部デザイナーの起用にも積極的ですよね。
木和田:僕は、デザイナーさんを使うのが大好きなんです。自分たちで会社を立ち上げて、自分たちでデザインして、メーカーさんに頭を下げてデザインしたものを作ってもらって、自分たちで売りに行って……と、そういう苦労をしている人たちが日本中にはたくさんいます。デザインの才能があっても、なかなかメーカーに作ってもらえないんですよ。たまに、そういう人がうちにも来ます。商品を見れば、才能があるかないかはわかります。東京営業所のスタッフにも見せたりする。すると「このかばんは結構売れているんですよ」、「そのブランド、流行の兆しがあります」なんてことを言い出したら、「じゃ、うちで全部作ってあげたらいいな!!」ということになります。例えば、豊岡鞄とのダブルネームで作って、在庫はすべてうちが抱えるからデザインを2シリーズくらい描いてきなさい、とかね。うちも売るから、自分たちも頑張って売りなさい、と。そういうチャレンジを、今しています。デザイナーと営業、夫婦でやっている人もいますよ。うちの“TUTUMU”というブランドは。まさにそうです。うちで100%作って、ロイヤリティを彼らに支払う形です。

──彼らは、すでに“TUTUMU”を立ち上げていて、御社に相談に来たのですか?
木和田:そう。別のところにお願いしていたんだけど、納期を守ってもらえないとか、作ってもらえないとかで、うちに「やってもらえないか?」と来たんです。


丈夫で軽い人気のビジネスバッグと。

──御社で「やろう!」と決断できたのは、それだけの魅力が“TUTUMU”にあった、ということですよね?
木和田:そう。売れると思いましたから。それに木和田商店はレディースに弱かったのでね。これをやりこなして売れたら「レディースもやっていますよ」と、堂々と言えますから。現状、木和田商店の豊岡鞄の売り上げ、半分はレディースですよ。

──“TUTUMU”はマイナー・チェンジなど行なっているのですか?
木和田:わりと頻繁にしますね。色や素材は特にね。もちろんすべてデザイナーの希望です。材料の情報はすべて渡しています。革や生地、毎シーズンの情報を渡して、それをデザイナーが吟味するわけです。毎月、打ち合わせもしていますしね。今は“TUTUMU”だけですが、この後、3ブランドくらい増えると思いますよ。今、準備中です。

──かばんを作っていく上で、社長が最も大切にしていることは、どんなことですか?
木和田:それぞれの用途にもよりますが、ビジネスバッグだったら、壊れないこと。特にハンドル。なぜハンドルが壊れやすいかといえば、ハンドルは革で作られている。革は伸びるんです。伸びるとステッチに負担がかかって、糸が浮いたり切れたりする。だから、伸びなければいい。使用後4年経って伸びてきたら交換すればいい。そういう強度と、軽さ。これが絶対です。カジュアルなリュックなどは、シルエットを重視しますね。トートは、シルエットと機能性。いかに使いやすいか、です。使いやすければ、色違いで買ってもらえることがありますから。機能性というのは、ポケットがたくさん付いていればいい、というものではないですよ。

──私も失敗したことがあります。ポケットだらけのかばんを買ったら、探しものがしづらい。
木和田:しかも、内装が黒だから余計に分かりづらい(笑)。


“豊岡鞄”と共に広めていきたい “豊岡財布”。

──まさしく、です(苦笑)。
木和田:だから工夫が必要なわけです。ポケットの口のところだけ、スカイブルーのテープをあしらってみる、とかね。かばん屋さんは、自分のところの商品を使わないとダメですよ。使ってみれば、商品のことが本当によくわかりますから。いい面も悪い面も。

──産地として人材の確保についてはどのようにお考えですか?
木和田:やっぱり難しいですね。弊社はここに80名が勤務しています。65歳を定年にしていますが、65歳になっても職人にはいて欲しい。彼らには技があるから、それを後進に伝えながら指導してもらいたいです。今、3名ほどそういう方がいてくれて、本当にありがたいなぁと思います。基本的な考え方としては、機械でできることは機械でやったほうがいい。オートメーション化するということ。IT化が進んで人間の技術がいらない部分が多くなってきたということは、若い人でも入ってきやすい環境になりつつあるということでもあります。

──人間は、機械の使い方を覚えればいい。
木和田:そう、すべてパソコンですからね。パソコンが使えればいい。時代の流れとしては、営業を募集しても誰もこないのに、縫製者の募集には人が来る。革の職人になりたい、とかね。と、それで始めたのがアルチザンスクール。但馬や豊岡だけで求人を賄うのではなく、全国各地から募ってみたらどうだろう、とね。そうしたら、来るわ、来るわ。で、今は卒業生の争奪戦をしているわけです(苦笑)。2年に1度、採用できたらいいかな。こればかりは、ご本人の希望もありますし、会社との相性もあるし。うちは今年、卒業生としては2人目となる社員を採用することができました。


アルチザン店内でも存在感を放つ木和田正昭商店のかばん。

──今後、豊岡鞄の名前を広めていくために、木和田正昭商店がしていかなければならないことは、どんなことでしょうか?
木和田:まぁ、世界に羽ばたけ豊岡鞄、でもいいんですけど……外国人旅行者が増えている現在はチャンスです。オリンピックまでは。海外に売りに出て行くことよりも、国内でどう売るかを考えた方がいい。となるとKITTEは使えるな、と。でもKITTEだけでは足りない。例えば、(店舗が)京都にありますね、とか、九州にもありますね、といった状況が必要だと考えています。
あとは、従来やっている百貨店のフェアを真面目に続けましょう、ということ。真面目にやればネットで売れるんじゃないかとは思っています。各社ネットを強化して、そこに産地直送の場を作ったらいいのではないかということです。が、まずは、インバウンドの需要に合った商品を作ることが先決ですね。今後は、“豊岡財布”にもチャレンジしていきますよ。

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